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Testament 〜旅立ち〜


Testament 〜旅立ち〜



 
 闇の中で一人、佇んでいる男がいた。
 敵も、味方さえも威圧するような刺々しい鎧を身につけ、何も無い暗闇をじっと見つめている。
 体全体が漆黒の衣に覆われ、今にも闇と同化しそうな雰囲気を醸し出していた。
 「・・・何を、しているんだ?」
 声を掛けるが全く返事が無い。
 「どうしてそんな所に立っている」
 男は振り向きもしない。
 彼はため息をついた。
 声が聞こえないのだろうか、さっきから話しかけているが全く返答がない。
 自分に背を向けて、あの男は何を見つめているのだろう。
 「おい・・・・・・っ!」
 男の足元で何かが動いた気がした。
 (こんな暗闇の中で見えるわけが無いのに・・・)
 光も、松明すらないのに何かが見えるわけが無い。
 (でも・・・いや)
 (なら、何故俺はあの男が見えるんだ?)
 もぞり、と男の足元で何かが動いた。
 よく見てみると何かが敷き詰められていた。
 動いていないのもあれば、小刻みに震えているものもあった。
 あれは・・・まさか・・・
 (じゅ、獣人たちの亡骸!)
 男が振り向いた。
 目と目が合った、気がした。男は何も見てはいない、感情の無い目をしていて
 そして手に持っていた鎌を大きく振り上げ―――
 
 
 
 「―――!」
 「お、気がついたか。グットイタイミングってやつだな」
 赤い髪を持つエルバーンが覗き込んでいた。
 「あ、あなたは・・・?」
 「ああ、俺?ソリュートって名前だ。お前を助けた命の恩人」
 そういうと彼は長い耳をピンと張り、にっこりと笑った。
 「お前西ロンフォのアウトポスト近くで倒れてたのよ。本当はすぐにでも助けようと思ったんだ」
 ソリュートは顎まで伸ばされたモミ上げを、指でいじり始めた。
 「まあ色々あって時間がかかっちまった。でも無事だったから問題なしだ。ここはサンドリア国立病院。
 体中血まみれだったから、とりあえず運んだんだが」
 「・・・?」
 「お前は傷一つ無いときたもんだ。丈夫な体してるよな〜!でも何であんなに返り血を?」
 「何故・・・?」
 ズキンっ、と頭に鈍い痛みが走った。
 「他の奴らはお前の事一人で敵と戦った勇者だとか、実は猟奇殺人者だとか
 分かりもしない事を並べて喜んでやがる。目撃したわけじゃないのに、困ったもんだよ。
 で、実際のところはどうなんだ?何があった」
 ベッドから身を起こした男は、ゆっくりとその顔を自分の手で覆った。
 「・・・っ」
 「おい、どうした」
 「・・・分からない」
 「は!?」
 こめかみの辺りがドクりと音をたてた。心拍がどんどん早くなる。
 「思い出せない」
 「・・・頭でも強く殴られたな」
 険しい顔が一瞬見えたが、ソリュートは目線を合わせるように膝を床に着け、シーツの上に手を置いた。
 「なあ、名前くらいは思い出せないか?」
 「名前・・・名前は」
 Testament
 「・・・Testament」
 「て、テスタメント!?」
 (なんつぅ親がいるもんだ・・・)
 Tesmatentとは契約、遺言書という意味を持っている。
 (獣人によっぽどの恨みを持った者か、あるいは生粋の戦士にするつもりで付けたのか)
 髪を下に伸ばしている所為か顔の表情が良く分からない。
 だが恐らく自分よりも年をとってはいないだろう。
 少しだけ幼さを残した男に、ソリュートは同情した。
 「ええと、後持ち物の事だけどよ。お前鎌しか持っていなかったんだ。ベッドの下に置いてあるからな」
 「鎌・・・」
 「ああ、あんな大きな鎌だから両手で使う奴だよな。まるで暗黒騎士みたいだ」
 「あんこく、きし・・・」
 「誰の物か分からないが、もしかしたらお前の事が少しでも分かるかもしれない。軍の方にまわして――」
 「暗黒騎士」
 「ん・・・どうした?」
 「聞いたことがある」
 「ほ、本当か!?」
 闇色は漆黒、月の無い夜、洞窟の奥の奥。
 何も見えず、自分の手すら見えない。感じるのは音と感触。
 生を持つものは、それに耐えられない。
 長い間いると精神を病んでしまう。
 けれどそれを好み、血を、腐敗さえも好む者たちがいた。
 闇の眷属。
 獣人と呼ばれるものたち。
 そしてそれに最も近い冒険者たちが、確かに存在する。
 自らの血肉を力に変え、命を削り戦う。
 業を背負い、鎌で敵をなぎ倒し、黒い衣を赤く染めていく者たち。
 人は彼らをを暗黒騎士と呼ぶ。
 (・・・似合いじゃねぇか、お前によ)
 鎌を持ち、過去を持たず、そして不吉な名前を持ったお前には丁度いいかもしれない。



 それから数日後、テスタメントは病院から姿を消した。
 鎌を持ち、敵を殺めて行くたびに何か思いだしそうになるが、結局は変わらない。
 手に残る感触は紛れも無く、自分の知っているものだと言えるのに。
 こうして彼は自分の記憶を探す旅に出かけた。
 しかし名前とは裏腹に、敵の断末魔や死ぬ直前の呪いの言葉など、彼は気にも留めることも無かった。





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